ソフトウェアIPとは、ある特定の機能を持ったプログラムのことです。例えば、画像を複数入力すると動きベクトルを計算して手ぶれを補正した画像を返すプログラムや、圧縮されたJPEG画像を入れると展開された画像を取得できるプログラムなどがあります。

ソフトウェアIPのビジネスモデルは次の点が優れています。

・単機能なため顧客ごとのカスタマイズが不要
・単一製品を多くの顧客に大量に売ることができる
・一度開発してしまえば、追加の開発リソースが不要
・ソフトウェアなため在庫リスクがない
・ハードウェアIPとは異なり、不良が出た時の損害賠償リスクが低い

逆に、単機能なため、売れれば売れるほど他社に真似されやすいという問題があります。そのため、いかに他社に作れない高度なアルゴリズムを詰め込むかがポイントになります。労働集約的なSIとは対照的です。

国内では、年間出荷台数の多い電子機器がターゲット市場になります。ガラケー、スマートフォン、デジカメなどですね。実際に、モルフォの顧客を見てみます。

顧客
2011年10月期 有価証券報告書より

この3社で、売上の約66%を占めています。次に、モルフォの商品構成を見てみます。

soft_ip_list
2011年10月期 有価証券報告書より

売上構成では、手ぶれ補正のPhotoSolidがトップ、JPEGデコーダのImageSurfが二位です。モルフォは手ぶれ補正のイメージが強いですが、実はJPEGデコーダも売れ筋です。携帯のカメラの高解像度化が進んだ結果、普通のJPEGデコーダでは速度が出なくなったのだと思います。JPEGは、係数のデコードと、IDCTの2つの処理がありますが、重いのはIDCTです。普通のJPEGデコーダでは画像全部の係数を展開して、全部のブロックをIDCTしますが、JPEGは8x8ブロック単位で独立してIDCTできるため、DC係数だけをデコードしてIDCTを省略したり、係数のデコードは必要なマクロブロックまで行うけれど、IDCTは画面に表示されるブロックしか行わないというなことをしているのだと思います。H.264などの近代的なCODECはブロック相関があるからこういったことはできないので、JPEGならではですね。

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(第8期報告書より)

モルフォの特徴として、上位2製品で売上の39.4%しかなく、比較的、分散しています。ロングテール的ですね。これは、顧客数が少なく、同じ顧客に複数の製品を売ることで売上を伸ばした結果、特定のソフトウェアIPだけが特出して売れるということが無くなったのだと思います。また、顧客との信頼関係ができた結果、顧客からの要望で新商品が作られ、ラインナップが多様化したという可能性もあります。ソフトウェアIPは、製造コストが0で、カスタマイズコストも低く、維持費もかからないため、ラインナップを増やしてもデメリットがあまり無いのも魅力です。また、同じ製品を複数の顧客に売るよりも、同じ顧客に複数の製品を売る方が簡単なので、ラインナップを意識的に増やして売上を拡大してきたのかもしれません。

モルフォは、これらのソフトウェアIPで、年間15億円近くの売り上げを上げています。利益は3億円程度。社員数が80人と多く、販管費が高いため、思ったよりも利益率が出ていない感じです。上場した結果、バックオフィスの強化が必要になって社員数が増加しているのと、成長戦略を描くためにソフトウェアIPだけでなくアプリケーションにも手を出し始めたのが利益を圧迫しています。こういった形で成長戦略を描かざるを得ないのは、ユニークなソフトウェアIPを作るというのがいかに難しいかを表しています。ビジネスモデル的には、コア部分以外のアウトソーシングによって、よりファブレス化を目指した方が手堅いのですが、そうはいかないのが上場企業ならではの大変さでしょうか。

ということで、ソフトウェアIPだけでもかなりの売上を立てることができます。ただし、そのシンプルさとビジネスモデルの優秀さゆえに、ライバルの参入も多く、IPとして差別化し続けるのが難しいです。また、アルゴリズムの出来が重要で、資本力では新製品は作れないため、イノベーションをマネージメントするという難しい問題があり、長期的に競争力を維持するのは難しいです。ある意味、製薬業界と近い感じですね。

いかに発明をマネージメントできるか。モルフォの挑戦は続きそうです。